リハビリテーション科とは

「動けないこと」への治療と生活の再建

「リハビリテーション」という言葉はテレビや新聞でも取り上げられる機会が増えて参りましたが、皆様の中には、マッサージをしてもらうことと誤解されていたり、辛いことを頑張ってやるというイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私たちリハビリテーション科が目指していることは、障害により生活が困難となった患者さんの疾病の治療にとどまらず、その人らしい生活を再建し、社会への参加を果たせるよう、お手伝いしていくことにあるといえます。

私たちの考えるリハビリテーションは、患者さんに主体的に、前向きに取り組んで頂くものであり、関わるスタッフはそのきっかけを作っているに過ぎません。専門性の高い様々な分野のスタッフが、患者さんの最大限の機能回復と、残された能力を最大限に引き出せるよう介入し、患者さん・ご家族のニーズを大切に、新しい生活が軌道に乗るよう継続的にサポートしていきます。

リハビリテーション科の対象疾患

近年、医療技術の進歩に伴い、救命・治療できる疾患が増えている一方で、病気そのものや、その治療に伴う後遺症などのために、一人で思うように動けず、日常生活が著しく制限された患者さんも増加しています。また、高齢化社会を迎えて、肺炎や転倒による骨折などをきっかけに、寝たきりとなる患者さんも増えています。

リハビリテーション(以下リハ)の対象となる疾患は幅広く、脳卒中、外傷性脳損傷、脊髄損傷、骨関節疾患、関節リウマチ、四肢の切断、神経・筋疾患、脳性麻痺、小児神経疾患、呼吸器・循環器疾患、熱傷、がん(骨転移、リンパ浮腫などを含む)などが含まれます。あまり知られてはいませんが、これらの疾患で起こる障害の中でも麻痺、嚥下障害、高次脳機能障害などはリハ科の得意分野です。

さらに、近年では特に高齢者において、体を動かさない状態が続くことで、手足の筋肉が衰える・関節が硬くなる・体力が落ちるなど、機能の低下が起こること(これを廃用症候群といいます)が問題となっています。リハの実践は、このような障害を予防するために、病院の中に限らず、地域生活の中でも必要とされてきています。

十分な診断・評価のもとに効率のよい訓練プログラムを提供

私たちリハビリテーション科の医師(以下、リハ医と略します)は、運動機能障害・行動障害の診断・治療・予防を専門としております。すなわち、筋電図・神経伝導検査、歩行分析などの物理医学的診断法も用いながら、適切な障害の診断、残存機能の評価、機能回復の予測を行います。さらに、全身状態の把握や、リハにあたってのリスクの管理、薬の処方、訓練の処方、義肢・装具の作製に携わり、必要に応じてボトックス治療などの注射も行います。訓練の内容には、理学療法(関節可動域訓練、筋力訓練、歩行訓練など)、作業療法(トイレや食事といった日常生活動作の訓練、手指の細かい動作の訓練、レーザー・電気刺激といった物理療法など)、言語聴覚療法(嚥下訓練、高次脳機能訓練など)があり、患者さんの状態にあわせて、これらを組み合わせて効果的に介入します。

そして、リハ医は、充分な診断・評価のもとに、患者さんに効率のよいリハ・プログラムを提供し、失われた機能の最大限の回復を促すとともに、残された能力を最大限に引き出すよう、治療を行っていきます。失われた上肢機能の回復という視点では、当科では慶應大学理工学部と協力し、Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation (HANDS) 療法やBrain Machine Interface (BMI)といった、最先端の神経科学に基づいた臨床研究を行っております。残された能力を最大限に引き出すための治療方法には、利き手交換(左手で字を書くなど)、補助具の活用(下肢装具を使用し歩きやすくするなど)、環境の調整(トイレに手すりをつけるなど)等があります。

これらの治療を行うには、リハ医をリーダーに、専門職である理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、看護助手、栄養士、薬剤師、ソーシャルワーカー、研究スタッフ、義肢装具士などから構成されるリハビリテーションチームでの連携が必要です。私たちリハ医は、個々の患者さんの機能を最大限に引き出し、日常生活の自立度を改善させ、障害を持った後もより質の高い生活を営むことができるように、チームリーダーとして患者さんとご家族をサポートして参ります。

参考