専修医教育

人材こそ慶應リハの全て

慶應リハを慶應リハ然しめているもの、それは則ち人材です。 人材を育て、超一流のリハ医として全国に、世界に羽ばたかせるためには、充実した指導体制とリファレンスの整った学習環境を提供することは最低限必要なことだと考えます。

卒後臨床研修(慶應義塾大学病院卒後臨床研修センター)

I. リハビリテーション科専門医とは

まず、リハビリテーション科専門医制度の理念と使命について述べます。リハビリテーション科専門医とは「病気、外傷や加齢などによって生じる障害の予防、診断、治療を行い、機能の回復並びに活動性の向上や社会参加に向けてのリハビリテーションを担う医師」です。リハビリテーション科専門医は、障害に対する専門的治療技能と幅広い医学知識・経験を持ち、他の専門領域と適切に連携するチームリーダーとしてリハビリテーションを主導します。リハビリテーション科専門医制度は、その専門医を育成、教育し、国民が受けることのできるリハビリテーション医療を向上させ、さらに障害者を取り巻く福祉分野にても社会に貢献するための制度です。専門医には、リハビリテーション医学を進歩・普及させるべく研究ならびに教育に尽力する使命もあります。そのため、研修プログラムでは、障害に対する幅広い医学知識・専門的治療技能、他の専門領域と適切に連携できるチームリーダーとしての資質を習得することが目標となります。

リハビリテーション科は一般社団法人日本専門医機構が定める19の基本領域の1つであり、2018年度からは日本リハビリテーション医学会が作成し、日本専門医機構の助言・評価を受ける基準等に基づく専門医制度に則った研修プログラムによってリハビリテーション科専門医が認定されています。

上記のリハビリテーション科専門医制度の理念と使命を踏まえ、慶應義塾大学リハビリテーション医学教室では、正統的リハビリテーション医学の継承と革新的発展を目指し、新しい時代を担う人材を育てることを教育目標にしています。臨床家としての質の高い知識と技量を身につけたリハビリテーション科専門医の育成とともに、リサーチマインドをもった臨床研究者(Physician Scientist)の育成にも力を入れています。大学病院での研修のほか、関東近県の関連研修施設での研修を通じ、実地研修を幅広く行い、将来、地域医療に貢献できる人材を育成します。すなわち、質の高い専門医・臨床研究者の養成と地域医療への貢献を併せ持った人材育成を目標としています。

慶應義塾大学病院リハビリテーション科専門研修プログラムは、最先端のリハビリテーションを担う1000床規模の大学病院を基幹とし、当教室に関連する特色ある連携・関連施設が共同して提供するものです。さまざまな疾患や病態の急性期から生活期までのすべての時期を網羅し、幅広い研修を行うことが可能です。大学病院において先進的でアカデミックな雰囲気のなかでのオールラウンドな研修、回復期リハビリテーション病院において主治医として地域密着型リハビリテーションを学ぶ研修、さらには、小児、脊髄損傷、骨関節疾患、神経筋疾患、切断、がん、などの専門的なリハビリテーションを学べる研修など、豊かな研修を受けることができます。また、全国でも最大規模の指導医を擁しています。大勢の指導医と専門医のなかで、切磋琢磨しながらの研鑽が可能であり、知識、技術のみならず、専門医としての具体的な将来像や理想像に身近に触れることにより、専門医取得後のキャリアの土台を構築することができます。

II. 専門研修プログラムの目標

1.習得すべきコアコンピテンシー

専門的知識・技術とともに医師として求められる基本的診療能力(コアコンピテンシー)を身につけることが必要です。これには、倫理性、社会性、態度などが含まれています。具体的な項目を以下に示します。

  • 患者・家族や医療関係者とのコミュニケーション能力を備える 医療者と患者・家族との良好な関係をはぐくみ治療を円滑に進めるためにコミュニケーション能力は必須です。医療関係者とのコミュニケーションもチーム医療のためには必要となります。とくに、リハビリテーション科では、長期にわたり患者と接することも多く、その学習過程や障害から生じる心理的問題への配慮など、コミュニケーション技術は重要な技術として身に付ける必要があります。
  • 関連職種との協調性をもち、チーム医療においてリーダーシップを発揮する 他の医療スタッフと協調して診療にあたることができるだけでなく、チームのリーダーとして治療方針を統一し、治療の方針を患者に分かりやすく説明する能力が求められます。
  • 医師としての責務を自律的に果たし信頼される 医療専門家である医師と患者・家族を含む社会との契約を十分に理解し、患者・家族から信頼される知識・技能および態度を身につける必要があります。
  • 診療記録の適確な記載ができる 診療行為を適確に記述することは、初期臨床研修で取得されるべき事項ですが、とくにリハビリテーション科は計画書等説明書類も多い分野のため、診療記録・必要書類を適正確実に記載する必要があります。
  • 患者中心の医療を実践し、医の倫理・医療安全・感染対策に配慮する 障害のある患者・認知症のある患者などを対象とすることも多く、適切な倫理的な配慮が求められます。また、医療安全の重要性を理解し事故防止、事故後の対応がマニュアルに沿って実践できる必要があります。
  • 臨床の現場から学ぶ態度を修得する 多様な障害、社会環境への患者へ対応するには、医学書から学ぶだけでは、対応が困難です。臨床の現場から経験症例を通して学び続けることの重要性を認識し、その方法を身につけるようにします。
  • 後輩医師に教育・指導を行う 学生、初期研修医、後輩専攻医とともに患者を担当し、指導医の指導の元、医師、リハビリテーションスタッフへの教育に取り組みます。基幹施設である慶應義塾大学には、「半学半教」すなわち相互に学び合い教え合うという福沢諭吉の言葉がありますが、教えることで学ぶことを通じ成長するとともに、その教育の継承により医療・社会へ貢献します。

2.習得すべき専門知識/技能

1)専門知識

  • リハビリテーション医学概論(定義・歴史など)
  • 機能解剖・生理学
  • 運動学:リハビリテーションに関係する基本的な知識
  • 障害学:臓器の機能障害、運動や日常生活活動の障害、ICFなどの障害分類に関する知識
  • 医事法制・社会制度:リハビリテーションに関係する基本的な法律・制度などの知識

2)専門技能

  • 診断・評価:リハビリテーションを行う上で必要な、各種画像検査・電気生理学的検査・病理診断・超音波検査など。運動障害や高次脳機能障害だけでなく、嚥下障害、心肺機能障害、排泄障害の評価といった、関連領域の評価。
  • 治療:全身状態の管理。障害評価に基づく治療計画。各種リハビリテーション(理学療法、作業療法、言語聴覚療法など)に加え、義肢装具の処方・ブロック療法・薬物治療・生活指導など。

3.経験すべき疾患・病態/診察・検査/処置等

*詳細は、研修カリキュラムを参照

1)研修プログラム修了判定時に最低限必要な経験すべき症例数

  • 脳血管障害・頭部外傷など: 15例
  • 運動器疾患・外傷: 19例
  • 外傷 性脊髄損傷: 3例
  • 神経筋疾患: 10例
  • 医事法制・社会制度:リハビリテーションに関係する基本的な法律・制度などの知識
  • 切断: 3例
  • 小児疾患: 5例
  • リウマチ性疾患: 2例
  • 内部障害: 10例
  • その他: 8例

以上の75例 を含む100例以上を経験する必要があります。

2)経験すべき診察・検査等 リハビリテーションに関係が深い分野毎に2例以上経験する必要があります。

3)経験すべき処置等 リハビリテーションに関係が深い分野毎に2例以上経験する必要があります。

4.地域医療の研修

通所リハビリテーション、訪問リハビリテーションなど介護保険事業、地域リハビリテーション等に関する見学・実習を行い、急性期から回復期、維持期における医療・福祉分野にまたがる地域医療・地域連携を経験します。またケアマネージャーとのカンファレンスの実施、住宅改修のための家屋訪問、脳卒中パスや大腿骨頸部骨折パスでの病診・病病連携会議への出席など、疾病の経過・障害にあわせたリハビリテーションの支援について経験します。これらの実習は、のべ2週間(平日勤務)以上とし、連続した勤務とは限らず例えば月に2回を5ヶ月以上などでも構いません。

5.リサーチマインドの養成および学術活動

専攻医は基本的な学問的姿勢として、医学・医療の進歩に遅れることなく、常に研鑽することが求められます。日常的診療から沸き上がる臨床的疑問を日々の学習、周囲の医療従事者との議論により解決します。今日のエビデンスでは解決し得ない問題については、臨床研究に自ら参加、もしくは企画する事で解決しようとする姿勢を身につけて頂きます。専門研修基幹施設や連携施設などの病院での臨床研究、大学院での研究等は、学術活動に触れる良い機会となるので、努めて参加することが求められます。 学会に積極的に参加し、基礎的あるいは臨床的研究成果を発表して頂きます。得られた成果は論文として発表して、公に広めると共に批評を受ける姿勢を身につけます。 なお、リハビリテーション科専門医受験資格を得るために、最低限実施すべき学術的活動として、「日本リハビリテーション医学会年次学術集会における主演者の学会抄録2篇を有すること。但し主演者としての発表2回のうち1回は日本リハビリテーション医学会年次学術集会または秋季学術集会であり、もう1回は日本リハビリテーション医学会 年次学術集会、秋季学術集会、または地方会学術集会のいずれかとする。」となっています。

詳しくは、「慶應義塾大学病院リハビリテーション科専門研修プログラム」をご参照ください。

引用:リハビリテーション科専門研修プログラム整備基準