重度上肢麻痺に対する先進的ニューロリハビリテーションの取り組み
■手の麻痺という後遺症
脳卒中、頭部外傷、脳腫瘍の手術後などで半数以上の方に上肢(手)の運動麻痺が後遺症として残ると報告されています。上肢の運動麻痺は治療が難しいことが知られており、かつては病気を発症してから半年以降の回復は困難であると言われていました。
しかし昨今、脳科学研究の進歩により、脳には変化しうる特性(可塑性)があることが証明されてきています。また、治療機器の開発も進み、発症から時間がたった運動麻痺でも改善の可能性があることがわかってきています。
■手の麻痺に対する当教室の取り組み
我々は、発症してから時間が経った上肢麻痺の治療に取り組んでまいりました。特に、手を日常生活の中でほとんど使えていないような「重い」麻痺の治療の開発をこの15年間、継続して行ってきています。現在、主に3週間程度の入院での「手の麻痺に対する先進的ニューロリハビリテーション治療」を行っております。当教室の手のリハビリの特徴は下記のとおりです。
1)手のリハビリに特化したチーム体制
運動麻痺を診断・治療する専門のリハビリテーション科医師、手のリハビリに関して熟練した作業療法士、病棟での生活を支え、生活の中での手のリハビリをサポートする看護師といったチーム体制により、患者さんの運動麻痺の改善を促します。
2)先進的リハビリテーション機器の活用
主に、筋肉や神経に電気刺激装置を使用し、麻痺した筋肉の回復を促進します。
3)手が動きにくい方でも行える「運動イメージ」の活用
スポーツの世界などでよく用いられる、いわゆるメンタルトレーニングですが、脳卒中後の運動麻痺にも効果があることが知られています。もし、動かしにくい手でも「運動イメージ」はできますので、それに電気刺激を組み合わせることで、麻痺した筋肉の回復を目指します。
4)日常生活での麻痺手の使用をサポート
麻痺した手がよくならない理由の一つに「使えないから使わない」という状態が、悪循環を呼んでしまっていることが知られています。そこで、医師、作業療法士、看護師がそれぞれの立場から、今の手の状態にあった日常生活での麻痺手の使用の仕方を提案することで、「少しずつでも使う」状態まで持っていきます。こうして「使わないからよくならない」という悪循環を断ち切ることは、運動麻痺を改善させるためにとても重要です。
■当院での治療を希望される方へ
当院で行っている「手の麻痺に対する先進的ニューロリハビリテーション治療」入院は、まず専門の医師が外来で全身状態を含む、運動麻痺の状態を診察し、適応を判断しております。ご希望される方は、「手のリハビリ入院希望」という情報提供書をかかりつけの先生に書いていただき、上肢機能障害の専門外来(月曜、水曜午前・担当医師 川上途行)の予約を取ってください。
大まかな適応基準は、下記の通りです。
1. 歩行、身の回りの日常生活は自立(装具や杖を使っていても構いませんが、一日3000歩程度歩ける体力が必要です)
2. コミュニケーション可能(失語があっても治療法の理解ができれば可能です)
3. 年齢は中学生以上(付き添いなしで入院が可能、小児病棟ではなく一般病棟での入院になります。10代20代の方の治療経験は多数あります)
4. 発症から5か月以上経過しており、回復期のリハビリは終え現在自宅で生活している
5. 一側上肢の麻痺(両側に麻痺がある方、強い失調がある方は適応にはなりません)
6. 最近1年以内にてんかん発作がない
7. 座った状態で、麻痺した手を口の近くまで挙げることができる
8. ペースメーカー、シャントなど体内に金属、異物が入っていない
9. 重度の拘縮(指や手首の関節がすでに固くなってしまって、他の人が動かそうとしても動かせない状態)がない
10. 麻痺側上肢に強い痛みやしびれがない
この条件に該当する方はさらに診察にて詳細な評価をさせていただいた上で治療が可能かを判断いたします。なお治療適応の判断に際しては頭のMRI 検査も必要になります。発症の時および1年以内に撮影された頭部MRI 画像がございましたらご持参ください。ご持参が難しい場合はこちらで撮影させていただきます。また現在内服中のお薬、経過が分かる必要があります。